旧民法当時における留保財産や家督相続後の特有財産について

隠居・入夫婚姻|留保財産・特有財産とは

旧民法(明治31年7月16日施行)における家督相続の場合、前戸主である被相続人が保有していた財産は一身専属の権利義務を除いては家督相続人にすべて承継されました。
しかし、旧民法(988条)では特例として隠居または女戸主の入夫婚姻によって生前相続である家督相続が開始する場合に、被相続人(前戸主)である隠居者または女戸主が自分の財産の一部を家督相続人に移転させないで留保することが認められていました。また、前戸主が家督相続後に家族の身分で特有の財産を取得することも可能でした。
このため、隠居者や入夫婚姻によって身分上は戸主から家族となった前戸主が隠居後や入夫婚姻後に亡くなった場合、家督相続人に移転されなかった留保財産や、前戸主が家督相続の開始後に取得した特有財産については家督相続ではなく戸主以外の相続と同様に「遺産相続」によって処理されることになります。

旧民法第988条
隠居者及ヒ入夫婚姻ヲ為ス女戸主ハ確定日付アル證書ニ依リテ其財産ヲ留保スルコトヲ得但家督相續人ノ遺留分ニ關スル規定ニ違反スルコトヲ得ス

(口語訳)
隠居者および入夫婚姻をする女戸主は、確定日付のある証書によってその財産を留保することができます。ただし、家督相続人の遺留分に関する規定に違反することはできません。
 

   旧民法下における隠居制度について

財産の留保を第三者に対抗するには、財産留保の意思表示が確定日付のある証書によってなされることを要し、財産留保したことを登記によって公示することはできませんでした。(明32.6.29 民刑1109 回答)。
大方の不動産が家督相続人名義に移転登記されているのに、一部の不動産だけが前戸主の名義のままであるときは、誤って登記を漏らしたか又は留保財産である可能性があります。

旧民法当時の隠居者や入夫婚姻した女戸主が退隠や入夫婚姻当時に所有していた不動産に何の手続きもせずに死亡した場合は、原則として遺産相続あるいは家督相続の登記をすることになりますが、隠居や入夫婚姻の日付よりも後の日付で不動産を取得していることが登記簿上で確認できる場合は、当該不動産は家督相続ではなく遺産相続の規定を適用して登記する必要がありますので注意が必要です。
 

Point

旧民法では隠居や女戸主の入夫婚姻のように、生前に家督を継がせる制度が存在しました。現行の民法では死亡相続のみですが、旧法当時は生きたまま相続が発生する形態もありました。