相続権の喪失  相続欠格とは

相続欠格とは

相続欠格とは、相続人が以下(1から5)のような、相続秩序を阻害する行為をした場合に、その相続人から相続権を奪う制度です。(民法891条)


1. 故意に被相続人または先順位の相続人や同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた場合。

故意犯である殺人罪に問われた者であれば既遂・未遂を問わず、また、被相続人を「死に至らせようとした」には、殺人予備(刑法201条)の実行行為も含まれます。

過失犯である過失致死罪や傷害致死罪は該当しません。

刑事責任能力がない者(刑法401条)、または正当防衛(刑法36-1)が成立したことによって刑を受けなかった場合は欠格事由には該当しません。
執行猶予付きの刑の場合、その猶予期間が満了すれば刑の言渡しが失効しますので上記と同様に欠格事由には該当しないと考えられています。


2.  被相続人が殺害されたことを知っていながらこれを告発・告訴をしなかった場合。

ただし、その相続人に是非の弁別がないとき* 、または殺害者が自分の配偶者や直系血族だったときは除きます。
( * 物事の是非・善悪の判断ができないとき)

犯罪が捜査機関に発覚した後で相続人が犯罪を知った場合などは、もはや告訴・告発の必要がないのでこの規定の適用はありません。

この規定には、被相続人が殺害されたときは、相続人として当然に告訴・告発すべきとする道徳的な意味合いがありますが、殺人事件であれば告訴・告発がなくても捜査機関に発覚した時点で捜査が始まりますので、必ずしも告訴・告発がなかったからといって相続欠格に該当するわけではありません。

                               *

3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回、取消又は変更することを妨げた場合
4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回、取消又は変更をさせた場合
5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、又は隠匿した場合

 

3号から5号の規定の趣旨は、いずれも、遺言自由の原則を尊重し、相続人による遺言に対する不当な関与を排斥することです。
ここでいう「遺言書」は、相続に関する遺言書に限定されます。
相続人が取得するべき相続財産の量や相続関係そのものに直接・間接を問わず影響があるものすべてを含むとされています。

昨今のような終活・遺言ブームにあっても、遺言書に関する正確な情報が行き渡っていないためか、一部の相続人が遺言書を隠匿するケースは決して珍しくありません。
しかし、遺言書を隠匿した相続人を欠格事由に該当するとした裁判例はさほど多くありません。これは、公正証書遺言の場合は原本が公証役場に保存されていますし、遺言書作成時には証人2人の立会いが要件とされていますので、たとえ一部の相続人が遺言書の正本を隠していたとしても、これだけをもって遺言書の発見を妨害したとはいいきれないものがあります。また、遺産分割協議の途中でそれまで隠していた遺言書が出てきたとしても、隠匿によって遺言書の発見を妨害する状況をつくることに故意があるだけではなく、その隠匿行為よって自分が相続に関して不当な利益を得ようとする目的があったという二重の故意*が必要であるとする説があり、且つ、その立証が難しいために、隠匿行為が発覚しても訴訟で解決をはからずに処理されていることも原因ではないかと考えられています。

 

* 最高裁判例平成9年1月28日
相続人がした遺言書の破棄・隠匿行為が、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、民法891条5号所定の相続欠格者には該当しないと解する。