生活保護受給者と相続財産の関係(資産保有の可否)

 

生活保護受給者に相続手続未了の不動産がある場合の保護の可否について

生活保護受給者(以下、被保護者といいます)に相続手続が済んでいない未分割の不動産があることが発覚した場合、保護が継続して受けられるか否かが問題になることがあります。

被保護者の親や兄弟が亡くなって相続が開始した場合、遺産分割協議がなされていない状態でも、相続人は法定の相続分で財産を相続している状態にあります。
その財産の中に不動産があれば、たとえ相続登記が未登記であっても被保護者は法定相続分(共有持分)を所有していることになります。
相続人が被保護者のみで単独相続する場合も、相続登記の有無は問題になりません。

相続した不動産が、原則として一定の要件を満たしていればその不動産を保有していても生活保護の利用はできます。しかし、要件を満たしていない場合には不動産の保有が認められず、売却等の資産活用を促され、それによって得た金銭は生活保護法第63条によって保護費の返還対象となります。
 

保護の補足性の原理

生活保護法第4条は、保護の要件として、生活に困って苦しんでいる人が、その利用できる資産や能力等を活用し、さらに社会保障給付等を受けてもなお最低限度の生活が維持できない場合にその不足分について保護を行うとしています。

(保護の補足性)

第4条  

1. 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

2. 民法 (明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。

3. 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。


生活保護は、人の最低限度の生活の維持を保障するものですから、たとえ持ち家があったとしても、そこに通常居住しているケースでは売却等の処分までは求められません。
しかし、居住用以外の不動産を所有している場合には、売却等の処分をし、それによって得た金銭を生活費に充当する必要があります。
 

資産の活用

生活保護法第63条は、被保護者が資力を有するにもかかわらず保護を受けた場合の費用返還義務について次のように規定しています

第63条
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。


資産の保有が認められる範囲は、実務の指針として用いられている「生活保護法による保護の実施要領」に示されているとおりですが、実際には居住用・事業用の物件ではないにもかかわらず法第63条が適用されず、行政側が処遇決定において苦慮する事例も多く見受けられます。例えば一例を挙げますと、以下のようなケースでは、単に63条の適否だけを論じても現実的には指導の実効性があがらないことになります。

保有事例.png生活保護利用者Aさんの兄Bさん名義の土地上に義弟名義の建物があり、義弟からは地代はとっていませんでした。
兄夫婦には子供はなく、配偶者が先立った後、義弟と同居中の兄Bさんも死亡。
建物には現在、兄Bさんの義弟が居住している。

本事例の土地は、被保護者の居住の用に供していないため、本来なら法第63条の適用対象となるのでしょうが、土地の使用関係が地代のともなわない「使用貸借」となっているため、改めて地代を請求させるとなるとBさんの義弟に借地権が発生することになり、都心部にあっては土地の実質的な値打ちを損なうことになります。
また、Bさんの義弟に土地の買取を請求するにしても、相手の経済的事情如何では想定どおりにいくとも限りません。

以上のように、不動産の保有については難しい問題を多く孕んでいます。
 

不動産を保有していた被保護者が死亡した場合の問題点

不動産の保有を認められていた被保護者が死亡した場合に、扶養義務者の立場にあった相続人が当該不動産を相続して売却し、その換価代金を取得するとういう問題ケースもあります。扶養義務を拒否しながらも、保護受給者の死後にその財産を換価し取得するという行為は納税者からしてみれば到底納得のいかないことでもあります。

こういった不逞を減らすために、不動産を所有する要保護者には「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」の活用を促すなど、現場では様々な工夫をこらしています。

 

ワンポイント

実務でよく問題になる生活保護法第4条「保護の補足性の原理」の解釈については、とかく独善的な考え方に陥りやすい領域であるために慎重に取り扱う必要があります。

生活保護制度における行政と要保護者との関係は、決して強者VS弱者、勧善懲悪の構図ではないはずですが、要保護者への誤った対応に対しては声をあげるべきですので、困った場合には専門家への相談を決してためらわないことが第一です。