葬儀費用の払戻しについて

 
最近では葬儀の規模やスタイルも比較的選びやすい状況になっていますが、葬儀となればそれなりにまとまったお金を用意する必要があります。しかし、遺族の諸般の事情から葬儀費用が確保できず、故人の預金を葬儀費用に充てなければならない場合もあります。

故人の預金から葬儀費用だけを引出せるか


もしも故人の口座が凍結されてしまった場合には、原則として相続手続に則った方法で払戻を受けることになり、書類の準備や共同相続人間の調整などに多くの時間をとられてしまいます。
昔とちがい、葬儀会社への支払も即日払いはほぼはなくなりましたが、それでも支払期限に間に合わせることは難しくなります。
こういったことも想定して、現在では柔軟な対応をしてくれる金融機関もあり、一定額(概ね100万円から150万円ほど)の葬儀費用であれば相続人の一人からの払戻請求にも応じてくれるようです。
所定の用紙と必要書類をそろえ、口座名義人の死亡状況や葬儀費用の明細等の確認事項をクリアすれば葬儀費用の範囲内の額の払戻しが可能となります。
払戻の上限額や必要書類などは金融機関によって多少異なりますので、相手先の金融機関に確認しましょう。

 預金者の死亡と口座の凍結・取引停止について

※ 口座が凍結される前であればカードを使って引出すことも可能ですが、その後の遺産分割や相続税務に影響がでることもありますので、喪主等の独断で安易に相続預金から支出することはなるべく避けたほうがよいでしょう。
 
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必要書類

手続の際には通常以下のものが必要になります。
  • 被相続人(故人)の除籍謄本あるいは戸籍謄本(法定相続人がわかるもの)

    ※除籍謄本は死亡届を出してから交付可能になるまで数日から1週間程度かかります。本籍地以外で死亡届を出した場合には、死亡届を出した役所から本籍地の役所に死亡届が郵送されますので2週間以上かかる場合もあります。また、死亡事項が戸籍に反映されるまでの事務処理の速度は自治体によって異なりますので、急ぐ場合は本籍地の役所に照会しましょう。
    ※被相続人(故人)が過去に転籍を繰り返している場合や、兄弟相続の場合などは戸籍の範囲が広がることが多いため、取り寄せにかなりの日時を要することもあります。
     
  • 法定相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人(故人)の預金通帳・届出印・キャッシュカード
  • 請求者の印鑑証明書
  • 請求者の本人確認のための身分証明

    ※ ゆうちょ銀行の場合は民営化前からの手続的名残がありますので他の金融機関とは内訳が異なります。
     

相続財産から葬儀費用を支払うことは法定単純承認にあたるか?

 
相続人が相続財産から葬儀費用を支出する行為は、民法第921条1号における法定単純承認に該当するのかという問題があります。支出が社会常識の範囲内の金額であること、費用の一部を自己負担しているかなど、他の事情も勘案して判断されることになりますが、具体的な金額や割合を定めた明文規定があるわけではありません。もしも、故人に多額の負債がある場合などは相続放棄も視野に入れなければなりませんので、事前に専門家の判断を仰ぐことも必要になるでしょう。
 
 
この問題に関する最高裁判例はなく下級審判例しかありませんが、よく引き合いに出される判例としては以下のものがあります。
 
大阪高等裁判所平成14年7月3日決定
 
葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り 行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことがで きないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。