郵政民営化前の簡保(現かんぽ)について


生命保険の死亡保険金が相続財産として扱われるか否かによって、相続方法を決定する際に大きな影響が出てきます。通常、故人が保険契約者かつ保険金の受取人となっている場合は、死亡保険金は民法上の相続財産となります。しがって相続人が保険金を受け取ってしまうと単純承認(民法921条)したものとみなされ、以後の相続放棄はできなくなります。また逆に、相続放棄した後は保険金の請求権がなくなってしまいます。
 
しかし、郵政民営化前に加入した簡易生命保険は、保険金受取人が無指定の場合において民法とは異なる法律で遺族受取人の優先順位を定めており、民法上は相続権が認められていない内縁(事実婚)配偶者も遺族に含めています。このように民法の相続人とは異なる範囲・順位で「遺族」を規定していることから考えると、旧簡保の保険金は民法上の相続財産に該らないのでは?という疑問が生じます。もし相続財産ではないとすれば、仮に保険金を受け取ったとしても単純承認したことにはならず、また、相続放棄後でも保険金が受け取れるということになります。
 
(郵政の民営化に伴い簡易生命保険法は平19年10月1日廃止されました。 しかし、民営化前に加入した簡易生命保険は従前の簡易生命保険法が適用されます。)
 
簡易生命保険法
 
(無指定の場合の保険金受取人)
 第五十五条
 終身保険、定期保険、養老保険又は財形貯蓄保険の保険契約(特約に係る部分を除く。)においては、保険契約者が保険金受取人を指定しないとき(保険契約者の指定した保険金受取人が死亡し更に保険金受取人を指定しない場合を含む。)は、次の者を保険金受取人とする。
 一 被保険者の死亡以外の事由により保険金を支払う場合にあつては、被保険者
 二 被保険者の死亡により保険金を支払う場合にあつては、被保険者の遺族
 2 前項第二号の遺族は、被保険者の配偶者(届出がなくても事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに被保険者の死亡当時被保険者の扶助によつて生計を維持していた者及び被保険者の生計を維持していた者とする。
 3 胎児たる子又は孫は、前項の規定の適用については、既に生まれたものとみなす。
 4 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは適用しない。
 5 第二項に規定する遺族が数人あるときは、同項に掲げる順序により先順位にある者を保険金受取人とする。
 6 遺族であつて故意に被保険者、先順位者又は同順位者たるべき者を殺したものは、保険金受取人となることができない。
 

旧簡保の死亡保険金は相続財産となるのか? 


以下の判例では、民法上の相続財産には該らないとしています。
 
第一審 横浜地裁平成17 年5月20 日判決
 控訴審 東京高裁平成17 年9月29 日判決
 上告審 最高裁第三小法廷平成18 年2月21 日上告不受理決定
 簡易生命保険において契約者、被保険者、保険金受取人が同一人であり、かつ相続人なくして死亡した場合、死亡保険金請求権は誰に帰属するのか
 
第一審 判旨
 
~略~簡易保険法55条の立法趣旨は、保険契約者が保険金を受け取るべき者を指定しないで被保険者が死亡した場合、直ちに民法等の一般規定により保険金を支払うとすると、保険金支払手続を複雑化し、保険金支払義務者が多くの日時を要して相続人確認のための調査を尽くさなければならなくなり、またその発見が困難な場合等もあるので、同条2項に規定する遺族に対し、また、同項の遺族が数人あるときは同項に掲げる順序によりその先順位にある遺族に対し(同条5項)、保険金を支払うとすることで、遺族主義を徹底するとともに、支払手続の簡素化と支払義務者の免責を図ったものと考えられる。そうすると、保険契約者が自己を保険契約者兼被保険者兼保険金受取人と指定して保険契約を締結した場合でも、一般的には自己が保険期間の満了時に保険金を受けとろうとしてのものであるから、その者が死亡して遺族がいる場合には、直ちに民法等の一般規定により保険金を支払うというのではなく、同法55条に規定された遺族に保険金を支払うことが予定されているものと解される。
 2 しかしながら、同法55 条をこのように解釈するとしても、保険契約者兼保険金受取人が相続人なくして死亡した場合には、民法等の一般規定により保険金を支払うと解するのが相当であり、本件各保険金請求権は相続財産管理人に帰属するものというべきである。けだし、相続人なくして死亡した場合にまで同条の適用があるとすると、被告は本件各死亡保険金の一切の支払義務を免責され、結局はその時効消滅を待って被告の配当原資の一部となることになり、このような結果は当事者間の公平に反するというべきである。なお、被告が主張する最高裁平成9年(オ)第80 号同年6月5日第一小法廷判決(略)は、本件のような事案に関するものではない。」第一審判決は、上記のとおり本件各保険契約に係る保険金請求権は被相続人に帰属しているとしてXの請求を一部認容したところ、Yがこれを不服として控訴した。
 
 
 控訴審 判旨
 
~略~本件各保険契約においては、いずれも被相続人が保険契約者兼被保険者であり、かつ保険金受取人となっているところ、本件各保険契約に適用される簡易生命保険法第55 条1項は、終身保険、定期保険、養老保険又は財形貯蓄保険の保険契約(特約に係る部分を除く。)においては、被保険者の死亡により保険金を支払う場合について、保険契約者が保険金受取人を指定しないとき(保険契約者の指定した保険金受取人が死亡し更に保険金受取人を指定しない場合を含む。)は、被保険者の遺族を保険金受取人とするとの趣旨を定めており、同条2項は、上記の遺族について、被保険者の配偶者(届出がなくても事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに被保険者の死亡当時被保険者の扶助によって生計を維持していた者及び被保険者の生計を維持していた者とする旨定め、さらに、同条5項では、第2項に規定する遺族が数人あるときは、同項に掲げる順序により先順位にある者を保険金受取人とする旨定めている。そうすると、本件各保険契約においては、被相続人の死亡によって、簡易保険法55 条1項括弧書きの「保険契約者の指定した保険金受取人が死亡し更に保険金受取人を指定しない場合」に該当することになるから、本件各保険契約に係る死亡保険金は同法55 条1項2号により被保険者の遺族がその固有の権利としてこれを原始取得するものであり、上記死亡保険金が被相続人(被保険者)の相続財産を構成するものでないことは明らかである。被控訴人は、保険金受取人が保険契約者自身の生命保険契約は自己のためにする保険契約であって、被相続人たる者が保険金受取人であり被保険者である場合は、その者の死亡により、それが相続財産を構成することは自明のことであると主張するが、これは簡易保険法55 条1項の文言に反する独自の見解であって採用することはできない。したがって、被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」
 
 
 最高裁上告不受理決定