単純承認とみなされてしまう場合 2  熟慮期間の徒過

熟慮期間の徒過

民法では第921条2号で、相続人が第915条第1項の熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月)以内に相続放棄限定承認もしなかった場合は単純承認したものとみなすと定めています。
自己のために相続の開始があったことを知った時とは、相続開始の原因である事実及びこれによって自分が法律上の相続人となった事実を知った時を意味します。
ある人が亡くなって相続が開始し、自分に相続人としての資格(相続権)があることを知った時にこの熟慮期間は起算されます。

相続開始の原因である事実」とは、ある人が亡くなったという事実です。その事実を知らなければ熟慮期間は開始しませんので、相続開始からいくら時間が経過しようと単純承認したことにはならず、相続放棄や限定承認ができることになります。

親や配偶者が亡くなったときは、「相続開始の原因である事実」と「自分が法律上の相続人となった事実」の両方を同時に知るケースが殆どですが、互いの関係が希薄で安否も定かでなかったケースや、先順位相続人の相続放棄によって後順位相続人に相続権が移ったようなケースでは、被相続人の死亡時期から相当ずれて上述の事実を知ることもあります。このような場合、あくまで「事実」を知った時から熟慮期間が開始することになります。

熟慮期間は、原則として、相続人が上述の事実を知った時から起算されますが、例外的に、特別な事情が存在する場合には、熟慮期間の起算点を遅らせることもあります。

 

<事例>
Xは20年前に親が離婚したことで父親Yと離別してから以降、一切の交流を絶っていた。
Yが亡くなった数日後に親戚筋からY死亡の知らせを受けたが、生前のYの生活困窮ぶりが伝えられたのみで、借金や資産についての説明は一切無かった。
Xは、熟慮期間経過後にYの債権者から支払請求を受けたことでYの借金の存在を知ることとなったが、Yの死亡当時、Yに相続すべき資産などなく、借金の存在を知る由もなかったので相続に関する手続きを何もせず放置していた。


このようなケースの場合、たとえ自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月を経過していても相続放棄が認められる可能性があります。

最高裁昭和59年4月27日判決では、「相続人が相続開始の原因となる事実及びこれによって自分が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の熟慮期間は相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識したときまたは通常これを認識しうる時から起算するのが相当である。」としています。


相続は必ずしもプラスの財産ばかりでなく、負債が残っているケースもあります。
負債のほうが大きい場合も少なくありません。
相続人が相続方法の選択をするにあたっては、財産内容の調査や相続関係を考慮するうえで一定の期間が必要になります。
これが民法で熟慮期間を設けた趣旨です。