相続税対策を始めよう4

会社経営者の相続には注意が必要です!

役員や株主を身内が占めているような比較的小規模の同族会社経営者や役員の方の相続に関しては、一般の方では考慮しなくてもよい相続財産について注意が必要です。
個人所有の預貯金・不動産・上場株式などが相続財産となるのは一般の方の場合と相違はありません。
しかし、会社経営者や役員の方に特有の相続財産として注意しなければならないのが、自社株式(取引相場のない株式)会社に対する貸付金です。

比較的業績の良い会社の経営者や役員は自社株式の評価にご注意を!

小規模な同族会社の場合、経営者もしくは経営者一族が自社株式の全部もしくは大部分を所有していることは、珍しいことではありません。
資本金1,000万円、1株の発行価格5万円、発行済株式総数200株の株式会社で、200株全部を経営者が保有しているような会社も数多く存在しています。
この場合、経営者は自分が所有している株式の総額を1,000万円と思いがちですが、そうではありません。
業績の良い会社では、この自社株式の評価が年々高くなり、何倍もしくは何十倍に価値が増加していることが少なくないのです。

自社株式の評価額が数倍から数十倍に増加する!

先日、事業承継のご相談を受けた経営者の場合が、上記のような資本金1,000万円で全株式を経営者の方が保有しているケースでしたが、提携先の税理士に自社株式の評価を出してもらったところ約12,600万円と算出されました。額面価格から12.6倍も上昇しており、相続が発生すればこれだけで基礎控除額を上回ってしまいます。

自社株式の承継対策は早めに始めよう!

このまま単純に後継者に自社株式を贈与すると、多額の贈与税が発生しますし、何も対策を講じないうちに相続が発生すると、相続人が重い相続税の負担に苦しむことになります
自社株式の承継対策として取るべき方策はいくつか考えられるのですが、ある程度の期間をかけて計画的に行う必要があるので、早めに対策を始めることが重要となります。

自社株式はどのようにして評価するのか?

自社株式の評価方法としては、会社を「大会社」「中会社」「小会社」と区分して、その会社の規模によって「類似業種比準方式」「純資産価額方式」といった評価の方法によって株価を計算するのが原則です。
ただ、自社株式の評価は一般的に複雑ですので、正確に計算するには専門家に依頼する必要があります。
しかし、正確ではありませんが一つの目安としては、会社の決算書の「貸借対照表」の純資産の部の合計額を発行済株式数で割った金額を1株あたりのおおよその金額と考えてもよいかもしれません。(あくまでも目安であり、会社保有の不動産が存在する場合などは大きく相違する場合もあるので注意が必要です。)
また、会社であれば税理士と顧問契約しているケースがほとんどでしょうから、決算書を作成してもらう際に、自社株式の簡易的な評価を出してもらうのがよいでしょう

いずれにせよ、比較的業績の良い会社の経営者や役員の方は、自社株式の評価を決算期ごとに把握し、評価額に応じて早めに自社株式の承継対策に着手してください

「赤字会社だから株価の心配はない」は本当か?

業績の悪い会社の経営者の方のご相談でよく聞く言葉に「赤字会社だから株価の心配はないですよ」というのがあります。
業績の悪い会社の場合には、確かに自社株式の評価を心配する必要がない場合が多いでしょう。繰越損失の額次第では、自社株式の評価が0というケースも少なくないからです。
しかし、会社が保有する不動産の価値が、購入時よりも大幅に上がっているなどの場合には、不動産の含み益が自社株の評価を押し上げてしまうケースもあります。赤字企業でも株価が上がってしまうこともあるので、一度は専門家に評価を依頼して確認しておいてください。

比較的業績の悪い会社の経営者や役員は会社への貸付金にご注意を!

自社株式の評価が低くても、経営者や役員から会社に対する貸付金が高額になっているケースが少なくありません。会社の経営難を乗り切るために何年にもわたり会社に実際に貸し付ける場合のほか、会計処理上、実際には貸付の事実はないのに社長からの借入金として決算書に計上されている場合もあります。そして、この会社への貸付金は長年積み重なって高額となっていることが少なくありません。

会社への貸付金には無関心な場合が多い!

業績の悪い会社では、この会社への貸付金は、返済してもらえる可能性がとても低いので経営者の方は無関心になりがちです。ましてや、上記のような決算書上だけの実体のない貸付金の場合は、その存在すら経営者の方が認識していないケースもありました。

会社への貸付金は、相続財産になる!

しかし、実体があろうとなかろうと決算書に計上されている貸付金は、相続財産になります。先日ご相談を受けたケースでは、経営者から会社に対する貸付金が8,000万円強ありましたが、経営者の方は相続には関係ないと思っておられました

この経営者や役員からの会社に対する貸付金は、会社の決算書の「貸借対照表」負債の部に短期借入金として計上されている(短期借入金の明細に関しては、「借入金及び支払利子の内訳書」を参照してください。)場合が多いので必ず確認しておいてください。会社への多額の貸付金が計上されている場合には、専門家に相談して、早めに相続対策に着手してください

自社株式と会社に対する貸付金には、くれぐれもご注意を!

相続財産のうち預貯金はもちろん、不動産や上場株式にも換金性がありますので、売却して相続税納付に充てることも可能です。
しかし、自社株式は後継者に引き継ぐ必要があり、第三者に売却して相続税納付資金をつくることは現実的に不可能です。その結果、相続税の負担のみが重くのしかかることになります
会社への貸付金については、会社が返済できる財務状態にあれば問題ありませんが、実際は、経営状態が厳しく、返済できないケースが大多数です。
戻ってくる可能性がほとんどないのにもかかわらず、会社への貸付金に対して相続税は容赦なく課税されます
極論してしまえば、相続において自社株式や会社に対する貸付金は、何の実益もないのに相続税だけが課税されるとても困った相続財産になりがちなのです。
自社株式や会社への貸付金をお持ちの経営者や役員の方々は、一刻も早く相続対策に取り掛かってください