「相続放棄」知っておきたい5つのポイント・Part1

「相続放棄」について、実際の相続の場面で知っておくとトラブル防止に有効なポイントを5つピックアップしました。
「相続放棄」の基礎的な知識を確認されましたら、ぜひこの5つのポイントを参考に相続トラブルを防止してください。
                           「相続放棄」基礎的な知識についてはこちら 

相続放棄・知っておきたい5つのポイント 

① 生前の「相続放棄」は無効
②「相続放棄」「遺留分の放棄」との違い、「遺留分の放棄」の利用方法
③ 借金の「遺産分割協議」は債権者には対抗(主張)できない
④「相続放棄」と「遺産分割協議において相続財産をもらわないこと」とは別の意味
⑤「相続分皆無証明書・特別受益証明書」にご注意
 

 ①生前の「相続放棄」は無効なことにご注意!

生前に親が子供に対して、住宅資金や事業資金の援助などの生前贈与をすることは少なくありません。
受贈者以外にも兄弟がいる場合には、贈与の際に当事者の親子間で次のような会話が交わされることがよくあります。

親「お前には先に財産を渡しておくから、私の相続の際には権利を放棄してくれ。」
子「わかっている。もちろん放棄することを約束するよ。」
会話だけで終わるケースもあれば、「私は、父の相続においては相続権を放棄します。」といった内容の書面を子が親に差し入れるケースもあります。

しかし、相続放棄は、実際に相続が発生した後にしかできません
上記のように被相続人である親が亡くなる前に、推定相続人である子が口頭や書面で相続財産は放棄すると約束していたとしても、それは相続放棄ではないので、法律的な効力はありません

上記のケースでは、生前贈与を受けていた子が、実際に相続が開始した後で相続放棄をしなければ、当然に相続人になり、遺産分割協議にも参加して、法定相続分を相続する権利があります
このことにより、相続トラブルを生じるケースは少なくありませんので、生前の「相続放棄」には効力のないことに注意してください。
  

②「相続放棄」と「遺留分の放棄」との違い、「遺留分の放棄」の利用方法 

上記のような生前贈与のケースで親が子に「相続放棄してくれ」と言った真意は、実際の相続の際に他の相続人との間でトラブルにならないことを意図したものでしょう。
では、相続トラブルを防止するにはどうすればよかったのでしょうか?

これについては前回のコラムでも書きましたが、生前贈与の際に「遺留分の放棄」と「遺言書の作成」をしておくことで相続トラブルを防止することができます。
手順については、前回のコラムをご覧ください

「遺留分の放棄」については、一般の方にはなじみの薄い手続きだと思いますので、前回のコラムとは違った観点からご説明いたします。

「相続放棄」は相続開始後にしかできませんが、「遺留分の放棄」は相続開始前でも行うことができます
「相続放棄」は、相続自体を放棄するので、初めから相続人にならなかったことになります
しかし「遺留分の放棄」は、相続自体を放棄するわけではありません

「遺留分の放棄」をしていた推定相続人も、相続が発生すれば当然相続人になり、遺産分割協議にも参加して、法定相続分を相続する権利があります。マイナスの財産があれば、それも法定相続分の割合で相続します。
このように「遺留分の放棄」をしただけでは、一見他の相続人と異なるところはありません

「遺留分の放棄」が意味を持つのは、遺言書があり、その遺言書が「遺留分の放棄」をしている相続人の遺留分を侵害しているときに遺留分の減殺請求をする権利を放棄させていることにあるのです
平易な言葉で言い換えれば、「生前贈与で財産を先に渡しておくから、遺言書の内容に異議を唱えるな。」ということを法的に実現させるのが、「生前贈与」・「遺留分の放棄」・「遺言書の作成」を組み合わせた方法なのです

生前贈与に関する相続トラブルを防止するには、非常に有効な方法ですので知っておいてください。